朝ごはんは食べない派の私だが、急にトーストが食べたくなった。ただの空腹であれば、あまり気にならない燃費のいい体質なのだが、今日は違った。珍しく朝7時から起きてエウレカセブンから延々と3時間ほどに渡るスーパーアニメタイムをリアルタイムで漫喫した日曜の朝だったので、どうしても「朝ごはんにトースト」というシチュエーションを久々に漫喫したくなったのである。
そう思い、ほこりっぽい自室を出てリビングへ出向いて行くと、母が福留の波乱万丈を見ながらトーストをほおばっていた。母は毎朝必ずトーストなのだ。テレビに映る徳永英明に夢中なのかこちらを見向きもしない。それもいつものことだ。私もさして気に留めず、キッチンへ向かった。カウンターの上には食パンを入れてある箱の蓋が、母が空けたのだろう、箱にたてかけるようにして置いてある。中を覗くと食パンが1枚あった。玄米の食パンだ。冷蔵庫や戸棚を覗いたが、他に食パンの買い置きはみつからなかった。
私は母の方を振り返った。母はトーストを食べ終え巨峰を口に運んでいる。寝間着のままでリクライニングした椅子にもたれ、テレビの徳永英明を見つめている。今日は母は出かけずに一日撮り溜めたビデオやテレビを見て過ごすのだろう。空になった皿に巨峰の皮が次々と積まれていく様を見ながら、私は「朝ごはんにトースト」の実現を諦めた。
この食パンを私が食べようとしていることは、母は予測していないだろう。この最後の一枚はきっと母が明日の朝に食べる分なのである。この家で朝ごはんをきっちり食べるのは母だけなのだから間違いない。今、私が食べると、明日の分の食パンを買いにいかされる事になるのは目に見えている。朝からアニメを見ながら洗濯物を干して掃除機をかけて布団も干し、今日はもう十分働いた。そうでなくとも自転車で商店街まで行くのは億劫だ。今日は一日溜まったアニメを消化し、FFTAをやるとさっき決めた。「朝ごはんにトーストを食べることと、食パンを買いに行かされることを比べれば、答えはもう用意されているようなものだ。それほど私の食に対する欲求は薄い。
アイスコーヒーの入ったコップを持った私は、母のいるリビングを背に薄暗い自室の戸を閉めた。